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きこりん きこりん ファン登録

2020.11.9

2020.11.9

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    きこりん

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    初雪は数日前に終わり、一度すべてが解けた。 昔なら、初雪がそのまま根雪になることも多かったが 近年は気温が高く、一度すべてが解けてしまうことが多い。 昔は、日中でも気温が低く、その中での初雪は、小粒でさらさらしていて、太目の草木は潰れることなく、雪の中に点在していたが 近年では気温が高いため、降り始めの雪は殆ど牡丹雪のように大きな塊で降り、草木のほとんどを、その重さで圧し潰してしまう。 その結果、草しか生えていない場所は、降り続く雪によって容易く雪原へと姿を変える。 一方、木々の梢には粒の大きな雪がこびりつき、積み重なっていき、入り組んだ細い枝を、その重さでへし折り、夏の間に乱れた樹形をすっきりさせてくれる。 私が生まれ育ったのは、北海道釧路市の内陸部に位置する標茶町で、もともとあった実家はその町外れにあった。 明治時代の中期に入植した祖父は、その後、国鉄職員となり、太古の昔には釧路湿原の一部だった広大な湿地を、ただ同然で手に入れ、家と畑を作る広さだけを埋め立て、それ以外のすべては長年にわたり手を付けずにいた。 実家の周辺は畑を隔てて広大な湿原であり、その中央には釧網線の線路があった。 祖父は時折、線路の点検をしにいくために、実家の裏に続く湿原の一部を堀り上げ埋め立て、細い道と、その脇に細い水路を作った。 雪の降り始めには、どこまでも続く真っ白な原野に、細く長く続く土色の直線と、それよりも僅かに幅の広い直線の水路だけがはるか遠くの線路まで続いていた。 夏ともなると、この広大な湿原は、まだ幼い私の格好の遊び場となり、大きく育った「谷地坊主」に飛び乗っては次の谷地坊主に飛び乗るということを繰り返していた。 横に大きな谷地坊主は安定性があったが、縦に大きくなるほど不安定となり、ゆらゆらぐらぐらとしたかと思った瞬間には、すぐ横にある「谷地まなこ」に頭から転げ落ちたりした。 谷地まなことは、時には大人を呑み込んでもなお足がつかないほどの底なし沼のような深さのものもあるが、実家周辺の湿原は乾燥化が進み始めていたので、深いものでもせいぜい子供の腰ぐらいまででしかなかった。 とはいえ、まだ幼かった私にとってはなかなかスリルのある遊びでもあった。 短い夏が終わるころには雨の日が多くなり、湿原の水位も上がり始め、釧路川へと繋がる水路には、時々、鮭が遡上してくるようになった。 そもそも、この水路の水源は、実家周辺に所かまわず出てくる湧き水を集めて流しているもので、実家で使用していた水もまた、この湧き水を掘り井戸としたものであった。 どうやら鮭は、この新鮮な湧き水の匂いを頼りに遡上してくるのだと思い当たった。

    2020年12月28日11時29分

    きこりん

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    翌年の春になると私の遊びは変わり、実家周辺のあちらこちらで小さな湧き水を見つけては、おもちゃのような小さなスコップで掘り上げて水量を増やし、水路へとつながるか細く頼りない新たな水路を作り、いずれもっとたくさん鮭がやってくるようにと願った。 そして、その年の秋には前年よりも多くの鮭の姿を確認することができ、それと共に、線路脇にヒグマが毎日現れるようになった。 このヒグマは、数日後に線路内に立ち入り、釧路から標茶を経由して弟子屈へと向かう、その日の最終列車と正面衝突し絶命した。 列車は、標茶駅に入る手前だったため速度を落としており、幸いにも脱線を免れたが、祖父は電話で頼まれたらしく、ヒグマの亡骸を撤去するために、懐中電灯の明かりを頼りに、もうすでに暗くなった湿原の中へと消えていった。 翌朝になると、茶の間に濡れた野良犬のような獣臭が漂っており、その臭いの元が、祖父が胡坐をかいて座っている薪ストーブの横の新聞紙の上に置かれたものだとわかった。 手回し式黒電話機の箱の横に飾られていた「大鵬」の手形よりも大きなその黒い塊は、赤黒い剛毛で覆われ、当時の私の人差し指よりも大きく長い爪が五つ並んでいた。 その後、それがどうなったのかは覚えていないが、見てはいけないものを見てしまった罪悪感のようなものがいつまでも心にへばりついていた。 やがて雪が降り始めると、遠くに線路が見える実家の窓から、線路と実家の間ぐらいのところに丹頂鶴の姿が見えるようになった。 いつからそこにいたのか、祖母が私の背中越しに「今年もまた来てたんだねぇ」と誰に言うともなく不意に声を出した。 私は「はっ」と驚き振りむきながら、これまでもいつも丹頂が来ていたことに気づいていなかった自分に初めて気づいた。 それからというもの、毎朝、窓から丹頂の姿を確認するのが自分の日課となったが、本格的な雪が降る前に、隙間風が入らないようにとすべての窓には外からビニールを張りめぐらされたので、寒くないように身支度をしてから外に出るようになった。 前の年までは、窓の外にビニールを張るということはしていなかったため、夜中に吹雪が続いたときなどには、窓の隙間から細かな雪が吹き込み、目覚めると枕元に小さな吹き溜まりができたりしていた。 また、2月の厳冬期ともなると、寝息で布団の襟元が凍ったりもしていたが、窓の外にビニールを張るだけで、このどちらもがなくなった。 今日は朝から雪が降り始め、リビングの窓から見える景色に、60年近く前の自分の姿が見え隠れした。 裏山の、僅かに雪が降り積もり始めた笹薮の中から、キタキツネが躍り出てきた。 知り合いのキタキツネかどうか見極めるべくしばらく眺めていると、再び笹薮に飛び込み、飛び出してきては、行きつ戻りつを繰り返し、飛び込んだり飛び出したりを繰り返している。 どうやら野ネズミを見つけて追い込んでいるようだが、しばらくすると元気なくうろつき始めた。 知り合いだったら、少し話をしたいと思い、外へ出て声をかけてみたが、振り向いて少しこちらを観察したのち、興味なさげに踵を返してどこかへ消えた。 カメラを向けることもなかったのではっきりとは確認できなかったが、態度からして、新勢力なのだろう。 野生動物の世代交代は思ったよりも早く、馴染みになったキタキツネと翌年に再開する機会は非常に少ないとわかった。 狩の下手なこの子は、これから初めての冬を一人で迎えるのだろう。 何とか無事に春を迎えられればと思う。 今日・明日は、月光池や美瑛の青い池、当別のふくろう湖などは撮影日和だろうなぁ・・・

    2020年12月28日11時29分

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