きこりん

聖夜は雪ポニョと共に　最終決戦編 もう飽きたかもしれないが、現実は必ずしも、小説のように「起承転結」でまとめられるものではない。 さて、先日来の「屋根の上の雪ポニョ」との戦いは、これで解決編となるが、まだ第１シーズンでしかないことも忘れてはならない。 「いつものように幕が開き～♪」 すっかり硬く締まった雪ポニョ山に脚立を立てて屋根の上に登る。 昨日、今日とすっかり暖気に包まれた「きこりん地方」は、二日にわたり小雨が降ったことで、積雪の高さが下がり、その分、一掬いの雪ポニョの体積が増えて重たくなる。 雪ポニョ降しができていない家々の屋根からは落雪が続き、下敷きになってしまった人が亡くなったり、大怪我をしたりしている。 そんなことにならないためにも、屋根から飛び出した雪庇を取り除き、通路側に落雪しないように雪ポニョ降しをする。 昨日今日の雨でいくらか解けているかと思った屋根の上の雪ポニョだが、見た目には一昨日とあまり変わっていなかった。 そこでまず、庭の桜の木の横に生えているカラマツの伐採をすることにした。 夏の間は高くて手が届かなかった最も厄介だった枝に容易く手が届いた。 左手でカラマツの幹に抱きつき、右手だけで鋸を操って数本の太い枝を切り落とす。 これらは夏の間に葉を茂らせて、日差しを遮るばかりでなく、降雨も遮るので、根元周辺の土がいつも乾燥気味になり、植物が育ちにくくなっていた。 思い切って切り倒そうかとも思ったこともあったが、野鳥が集うこともあり、防獣ネットを張る際の柱の代わりにもなると考えてとりあえず残してみることにした。 一通り枝を払ったので、屋根の上の雪ポニョとの対決に取り掛かる。 「ありゃ？　(。´・ω・)ん?」 見た目は一昨日と変わらなかったものの、屋根の上の雪ポニョの上に足を乗せてみると 屋根の上に20㎝ぐらいの厚さでこびりついていた屋根の上の雪ポニョがザクザクと、シャーベット状化していた。 「ふふふ・・・」　 男は、右の頬で薄く笑った。 この状態ならもう、懸命になって雪ポニョを降ろす必要もない。 男は確信したかのように、去年まで使っていた「高性能ママさんダンプハイパー」を手に、屋根の中央に残しておいた屋根の上の雪ポニョ軍団の中央部に乗り込んだ。 この中央部には、本来なら北海道や東北のような降雪の多い地方では絶対にあるはずのない煙突が、モルタルに四角く囲まれて鎮座している。 この家の設計施工は、昭和の終わりに荒稼ぎを企んだ本州の悪徳業者のアホどもが行っただろうことが一目でわかる。 これをもし、北海道の業者が設計施工したのであれば、それはもうバカ以外の何物でもない。 男はまず、この煙突を取り囲むように取り残された屋根の上の雪ポニョの、煙突の根元よりも高い位置の雪ポニョたちを取り除きにかかった。 男はこれまでとは違い、取り除いた雪ポニョを、横の屋根の上の雪ポニョの山の上に乗せていく。 ある程度の雪ポニョを取り除くと、今度は煙突横の雪ポニョを取り除いていく。 「ミシッ！」 「グググググググッ・・・」 もうすっかり、その結束を失い、錆びた屋根にしがみつく力さえ衰えてしまった屋根の上の雪ポニョが、煙突に回したその手を解かれたことで、あまりにも肥大しすぎた自重を支えきれずに滑り始めたのだった。 男が積み上げた雪ポニョの山も自重で動き始め、もうほぼ、屋根の上の雪ポニョは、直接手を下さなくても勝手に滑り落ちていくことだろう。 未だ屋根の上に蔓延る厚さ20㎝ほどの、硬くなった屋根の上の雪ポニョに、横に一線の亀裂が入った。 男は再び、右の頬で薄く笑い、すべてを見届けることなく屋根から降りた。 そして、普段は開けることのない物置のようになった8畳間の襖を開け放ち、リビングの温かい空気を送り込む。 ほどなくして、屋根の上から異音が聞こえてくる。 屋根の上の雪ポニョ降ろしをしている間から、今現在も降り続く小雨のせいで、すっかりしがみつく力を失った屋根の上の雪ポニョたちが、大きく小さく滑っている音が、別れを惜しむ歌声に聞こえる。 決してまだ、屋根の上の雪ポニョのすべてが取り除けたわけではないし、明日から再び寒波襲来となり降雪も多くなるとのことで、気を抜くことはできないが、ここはひと先ず、筆・・・ではなく、ママさんダンプを置こう。

2020年12月24日20時07分