ある男の写真日記
ファン登録
J
B
あなたを知らない 遠い見知らぬ異国くにで死んだ画学生よ 私はあなたを知らない 知っているのはあなたが遺こしたたった一枚の絵だ 続きの詩はコメント欄に載せますが この詩を読んで 秋の日に木漏れ日の中に今自分がここを訪れたことさえも 亡くなられた画学生たちは知らないのだろうと思った。 ※Yashica Mat124G Kodak TMAX400
ある男の写真日記
あなたの絵は朱い血の色にそまっているが それは人の身体を流れる血ではなく あなたが別れた祖国のあのふるさとの夕灼やけ色 あなたの胸をそめている父や母の愛の色だ どうか恨まないでほしい どうか咽なかないでほしい 愚かな私たちがあなたがあれほど私たちに告げたかった言葉に 今ようやく五十年も経ってたどりついたことを どうか許してほしい 五十年を生きた私たちのだれもが これまで一度として あなたの絵のせつない叫びに耳を傾けなかったことを 遠い見知らぬ異国で死んだ画学生よ 私はあなたを知らない 知っているのはあなたが遺したたった一枚の絵だ その絵に刻きざまれたかけがえのないあなたの生命の時間だけだ 窪島誠一郎 一九九七・五・二(「無言館」開館の日に)
2020年11月15日17時53分