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きこりん@木古林直樹 きこりん@木古林直樹 ファン登録

すがりつくような牡丹雪の向こう側

すがりつくような牡丹雪の向こう側

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    コメント7件

    きこりん@木古林直樹

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    「来てみたよー^^/」そんな声が聞こえたような気がした。 リビングの窓は南向きで、夏ともなると朝から夕方まで強い日差しが差し込むので、暑いやら眩しいやらで閉口する。 これが冬の間でも晴天ともなると、眩しくてどうしようもないので、レースのカーテン代わりに幾重にも防虫ネットを窓際に張っているので、外の様子は昼間でもぼんやりとしたシルエット状となり、かろうじて色がわかる程度の視認性しかない。 そんな環境なものだから、季節ごとにリビングのソファーの位置を変えることで対応しているわけだが、今の季節はまだ、視認性の悪い窓に背を向けるようにソファーを置いている。 そして、このソファーに座った時の頭の位置と、窓の外に未だ残っている雪山の頂上がほぼ同じ高さで、春がまだ遠いと感じさせられる。 いつものように朝から陶芸用の土を20キロほど揉み終え、昼過ぎから最近日課となりつつあるパン用の自家製酵母種を仕込み、パン生地を手捏ねして二次発酵を待ちつつリビングで一服しているときだった。 外は薄曇りながら、ソファーに座った背後から室内に明るさを齎せていたのだが、不意に存在感のある暗い影が過った。 振り向くと、雪山の上に茶色い姿が見えた。 「あれ?Tsuki?」と思い立ち上がると、雪山から降り始めたので、窓のフレームを叩いて音を立ててみた。 茶色いものは動きを止めて室内を覗きこむようにしていたので、急いでカメラを用意し、身支度をして外へ出てみた。 茶色いものは玄関のドアを開けるよりも僅かに早く、玄関前の雪山に飛び乗り腰を降ろした。 「あははwTsukiじゃんw どうしたの?めずらしいねー」 Tsukiのこれまでの訪問は、夜から深夜にかけてばかりで、一度も日中に来たことが無かった。 そんなことから、遊んだあとには「昼間においでよー」と声をかけ続けていたことが伝わったのかもしれない。 カメラは夜の撮影のままだったのでマクロレンズがついており、少しでも近くで撮ろうと這いつくばってTsukiに近寄ってみる。 「ねぇ、遊ぼうよ」一枚目は、そんな声が聞こえてきそうな表情となった。 マクロレンズのまま何枚か撮り続けていると、Tsukiが踵を返して帰りそうになったので「待って待って!」と声をかけてから、室内に戻り、70-200mmにレンズを替えた。 夜とは違い、Tsukiの警戒心が強いように感じたので、少し離れて撮ってみる。 しかし、70-200mmの画角が気に入らない。 Tsukiとの距離も中途半端なので思うようにピントがこない。 もう一度室内に戻り、50-500mmのレンズに替えて撮影を試みる。 そうこうしているうちに、再びTsukiが踵を返したので私もカメラを置きに玄関に戻る。 すると、さすがにツンデレらしく、私の後を追って慌てて玄関の中まで入ってくる。 「わかったよ、もうカメラは置いたよ。さ、遊ぼう!」そう声をかけて外へ出ると、後ずさりしながら後方へと飛び跳ねる。

    2019年03月15日19時40分

    きこりん@木古林直樹

    きこりん@木古林直樹

    昨夜の私の匍匐前進の後はすっかり消えていたが、その遊びがよほど楽しかったのか、まるで私を誘うように同じ場所まで後ずさりする。 おもむろに雪原に突っ伏すと、Tsukiも昨夜のように飛び退く。 Tsukiの足元に匍匐前進で近づくと、後ろ跳びで、あるいは横っ跳びで逃げる。 動かずにいると「クゥクゥ」と鼻を鳴らして近寄ってくる。 すかさず勢いを付けて這い寄ると、声こそ出さないものの「ギャー」とばかりに大口をあけてのけ反り、ひっくり返る。 「本当に野生のキツネなのか?」と思うほどTsukiの反応は飼い犬っぽく、思わず抱きしめたくなってしまう。 まだ3時30分を過ぎたばかりだが、雪雲が空を覆い始め、昨夜の小雪とは違い、遅い冬ならではの牡丹雪がすがりつくように激しく降り始めた。 シャーベット状で少し硬くなった雪原をゴロゴロと転がって遊んでいたためTsukiと私はすっかり濡れてしまった。 この遊びをTsukiも随分気に入ったようで、いつまでも止めようとはしなかったが、さすがに濡れた体毛が気になり出したのか毛繕いを始める。 「雪も凄いし、終わりにしようか?」頬杖をついて寝転がったまま問いかけてみるが、Tsukiも寝転がって毛繕いに夢中だ。 「どうせまた夜にも来るんだろ?」更に話を続けてみるも、さっきまで興奮気味だったツンデレのお嬢さんは見向きもせずお洒落に余念がない。 「オレも濡れちゃったし帰るよ」そう言って立ちあがっても、目だけでこちらを見つつ化粧を直す。 まるで、倦怠期を迎えたカップルのような光景だ。 家に戻り、玄関フードのドアを閉めガラス越しに観察してみる。 いつもなら、それが別れの合図となっていたのだが、今日は少しの間毛繕いを続けてから、玄関フードのガラス越しに、ちょこんと座った。 「あれ?何かあるの?まだ遊ぶの?」ドアを開けて訪ねてみるが、じっとこちらを見上げている。 「はい!もうおしまい!」そう言ってドアを閉めると、ようやく腰を上げ、町へと続くアスファルトの道路をトボトボ歩いて行った。 そんなTsukiの後ろ姿を、私はカメラで追いかけた。 あの時、Tsukiは何か言いたかったのだろうか? 伝えたい何かがあったのだろうか? 別れの時間が来るたびに、意思の疎通を図れないことのもどかしさ、言語の違いの歯痒さを痛感するのだった。

    2019年03月15日19時41分

    裕 369

    裕 369

    人なっこい感じがします 可愛い表情・・・目線素晴らしいですね。

    2019年03月15日19時49分

    ばるさむ

    ばるさむ

    楽しみに読ませて頂いてます。

    2019年03月15日19時53分

    hiyama1965

    hiyama1965

    何時も楽しみに読ませてもらっています。 飼い犬の人の表情を読む目つき にそっくりですね。

    2019年03月15日20時06分

    イルピノ

    イルピノ

    この物語、いずれ本を出版して欲しいです。 そして、ノンフイクションとして映画化になれば嬉しいですね。 それにしても、きこりんさん、文才ありますよね(^-^)/

    2019年03月15日20時45分

    blackcat

    blackcat

    いつもハラハラドキドキで、一気読みさせて頂いてます。 画が言葉が心を和ませる…有難うございます。^^

    2019年03月15日21時07分

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