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吹雪の夜には手作りアイスクリーム

吹雪の夜には手作りアイスクリーム

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    コメント5件

    きこりん

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    真夜中になって急にアイスクリームを食べたくなることがある。 寝苦しい真夏の熱帯夜ならともかく、ダッジ・チャージャーのエンジンのような音を立てて吹雪が窓の外を渦巻いているというのに、冷たいアイスクリームを食べたくなるのだ。 暖炉は薪をくべ過ぎて、熱くて傍に近寄ることができない。 ロッキングチェアーを暖炉から少し離して揺られているのに、ワイキキのビーチで転寝をしたかのように顔が火照る。 暖炉の火もアイスクリームも、おふくろがいたら「こんな夜中に!」と、しこたま怒られるところだろうが、あれからもう何十年も経っている。 叱ってくれる人もいなければ、叱ってあげる人もいない、一人やもめは気楽な人生さ。 さて、そろそろアイスクリームでも作ろうか。 意を決した男は、ゆるゆるとチェアーから立ち上がり、寒々とした真冬のキッチンへと向かった。 キッチンへ立つと男は手慣れた様子でボウルを3っつ用意しながら、いつもの「As Time Goes By」を口ずさみ始めた。 男はハンフリー・ボガートのようにコートの襟を立てた。 男はまず、冷蔵庫でよく冷えた玉子を3っつ取り出し、器用に2つのボウルそれぞれに黄身と白身を分けて入れた。 次いで、3っつ目のボウルに200ccの生クリームを乱暴に注ぎ入れた。 「お前に恨みがあるわけじゃないが、遅かれ早かれさ」 男は、右の頬で僅かに笑った。 男は、それぞれのボウルに砂糖を25グラムずつ入れると、ふと手を止め、キッチンの窓から外の様子をうかがった。 男はすぐに、シンクの奥に、いくつかのパーツに分けて隠しておいたリーサルウェポンを取り出して組み立て始めた。 「こんな吹雪の夜は敵も近づきやすいからな」男はそうつぶやきながら眉をしかめた。 最後のパーツが「カチッ!」と音を立ててはまると、男は少し息を飲み、それを頭上に掲げて叫んだ。 「ハンドミキサー!」 男のその姿は、まるで古い漫画のキャラクターのようだ。 「これさえあれば、アイスクリームなんか30分もかからないぜ。マフィアやスパイには通用しないがな」 男は再び、右の頬で僅かに笑った。 男は、手にした5段階変速のハンドミキサーを玉子の白身と砂糖だけが入ったボウルに突っ込むと、最速の5に合わせて手早くメレンゲを作った。 材料のそれぞれを混ぜ合わせるわけだが、その順番にはちょっとしたコツがある。 まず、3個分の白身と25グラムの砂糖が入ったボウルを混ぜにかかるが、白身は角が立つまで徹底的に混ぜ、上質のメレンゲを作らなくてはいけない。 次は、200ccの生クリームと25グラムの砂糖が入ったボウルだが、混ぜる前にバニラエッセンスを数滴入れ、超低速でゆっくりと混ぜていくのがコツだ。 生クリームは、ゆっくり混ぜることで滑らかで上品な仕上がりになるのだ。 最後に、3個分の黄身と25グラムの砂糖が入ったボウルを混ぜるが、これは白身以上に徹底的に混ぜ、マヨネーズ色になるぐらいにしておく。 これが最も重要で、手抜きをすると、冷凍しているうちに分離してしまいアイスクリームにはならなくなる。 更に、この順番で混ぜればハンドミキサーをいちいち洗う必要がなく、次々と作業ができるので面倒臭さを感じない。 さあ今度は、この3っつのボウルの中身を一つにまとめるわけだが、これもまた順番がある。 まずは、生クリームのボウルに黄身のボウルの中身を全て入れてハンドミキサーで軽く混ぜ合わせる。 次に、白身のボウルの中身を半分だけ、生クリームと黄身の入ったボウルに入れ、これもまたハンドミキサーで軽く混ぜる。 最後に、残った白身のボウルの中身を全て入れ、ハンドミキサーでざっくりと混ぜ合わせる。 あとは、ビニール袋にでも流し込んで、冷凍庫に入れて凍るのを待つだけだ。

    2019年01月24日14時26分

    sika3

    sika3

    こんにちは。 楽しく読ませていただきました(^^♪

    2019年01月24日12時04分

    きこりん

    きこりん

    全ての作業を終えた男は、元のチェアーに戻って煙草を咥えると、紫煙をくゆらせ、その時が来るのを待った。 「去年の今頃に何をしていたかなんて覚えていないし、来年の今頃なんて考えもしないさ」 まるで、針飛びしたレコードのように、同じ台詞をブツブツと喉の奥で繰り返しながら、去年の今頃を思い返していた。 今の時代、アイスクリームは近所のコンビニで手軽に手に入るだろうが、男の家からコンビニまでは4キロ以上離れているので、男にはコンビニエンスの意味がわからなかった。 「不便なら、不便なりに楽しめばいいのさ。昔はコンビニどころか、スーパーすら無かったんだからな。そういえば、自動販売機だって・・・」 男は懐かしそうに、暖炉の炎を見つめ続けた。 30分もすると、冷凍庫の中のアイスクリームも固まり始めるが、まだまだソフトクリームよりも柔らかい。 それでも男は待ち切れず、大正硝子のサンデー・カップに出来立てのアイスクリームを入れ、ウエハースとチェリーを添えたいところだが、何も無いのでそのまま皿に盛り付けた。 暖炉の炎もすっかり落ち着いた頃には吹雪も収まり、窓の外は静寂と暗闇に包まれていた。 男には未来のことなどわからなかったが、春の息吹を待ち遠しそうに窓の外を眺め、曇ったガラスに「キッド」と指でなぞってみるのだった。

    2019年01月24日14時26分

    イルピノ

    イルピノ

    手作りのアイスクリーム、とても美味しそうですね~。 それより文才がおありのようですね。 いつも楽しく拝読しております~

    2019年01月24日15時56分

    GX400sp

    GX400sp

    いいですね~ 最近時間がなくて純粋に読むことを楽しむ機会がめっきりなくなっています。 きこりんさんのアップがとても楽しみです。 お味はいかがでしたか?アイスクリーム。

    2019年01月24日21時33分

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