yoshi.s
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J
B
山道に迷って、もう何時間歩いただろう。 汗をかいてくたくたになった身体に、不安感が押し寄せる。 鬱蒼とした森の中の、道とも言えない通り跡。けもの道に迷い込んだようだ。 それでなくとも薄暗い森に、夕闇が迫りつつあった。 急がなければ。 日が落ちたら山の中では一歩も歩けない。真っ暗闇になる。 急がなければ・・。 そしてとうとう、道を見失った。 顔を上げて回りを見てももう薄暗くなっていて、真っ黒な木と木の間がかすかに見えるぐらいだ。 それでも薄明るい方向に向かって少しずつ歩く。 *下につづく
真っ暗闇の中の黄色い花。自分も夢を見ているのではないかと思いました。 怖い感じを抱きながら引き込まれて一気に読ませていただきました。 そして夢が覚めました。
2017年05月20日07時34分
michyさん 夢幻能というジャンルがあります。 旅人に死者の霊が現れて、話をするというものです。 この掌編は、そのようなものをモチーフにしました。 したがって、ちょっと怖いような・・。ごめんなさい。
2017年05月20日15時36分
能について初めて「現在能」と「夢幻能」があることを知りました。 いつもyoshi.sさまから教えて頂きありがたいことです。 怖いなどといわずに「夢幻能」また学ばせていただきます。 ありがとうございました。
2017年05月20日21時15分
僕と娘と花の物語 父を思う娘の魂(他に適当な言葉を思い付かないので)が 花をして父を危難より救い出した・・・ 花を仲立ちにする思いが時空を越えて物語を紡ぐ・・・ 小泉八雲の作品に通ずるものを感じます。
2017年06月04日16時34分
ninjinさん 小泉八雲を引き合いに出されるとは光栄です。 書いているといつしか幻想的な物語になっているのはどうしてか、自分でもよく分かりません。
2017年06月17日01時29分
yoshi.s
*つづき やがて、灯りが見えた。 いや、灯りではない。 いくつものぼうっと明るいものが、あたり一面に広がっている。 そこにだけ木がなく、小さな空き地のようになっている。覆う枝葉がないので、夕暮れの空の薄明が差し込んでいる。 明かりのようなものは、一面の小さな黄色い花だった。 わずかな明かりを受けて、一つひとつが盆提灯のように闇に浮かんでいる。 僕はもう死んでいるのか、と思った。 突然、頭の中で、「大丈夫だ。花に入れ」と声がした。 声に励まされて、花の中に入っていった。 頭の中の声はさらにはっきりと、「花について行け」と言った。 そのとたんに、真ん中の花がかすかに揺れて、そして宙を動き始めた。ついて来いと言っているようだ。 僕はその花についてよろよろと歩き出した。 どのぐらい歩いたのだろう。ほとんど記憶がない。 気がつくと、僕は自分の車の横に座っていた。 ドアの鍵を開け、倒れ込むようにして中に入ると、そこには小さな黄色い花が置いてあった。 思い出した。出がけに娘が「野原で摘んだの」と言って、くれた花だ。 東の空がわずかに明るくなり始めた。 *おわり
2017年05月20日15時25分