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*つづき 中に入ってみて、その数に驚いた。30人以上もいるだろうか。テーブルはあるが、椅子はない。みな立ったままで缶ビールを片手に話しをしている。何かが整然と行われているのではなく、ただ人々が集まって、音楽に揺れながら話をしているだけだ。 人の中に入っていくと、一週間ほど前に顔見知りになったアレンが声をかけて来た。「ヘイ、ケイ、俺のガールフレンドを紹介しよう」 アレンはスコットランド系のアメリカ人で、海軍の兵役を終えて間もなかった。仕事を探しにこの街に来たのだ。 *下につづく
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*上からのつづき アレンに連れられて出て来たのは大変な美人で、名前はアドリアーナ。スペインからの旅行者で、しばらくこの街にいる予定だと言う。長い黒髪。皮のベストにタイトなジーンズ、膝までのブーツを履いていた。いかにもスパニッシュ・ビューティといった雰囲気だ。 彼女は笑いながら言った。「ガールフレンドじゃないわ。いまここで知り合ったばかりだもの」 それでもアレンは、「いや、すぐにそうなるさ」。「それともケイのガールフレンドになるか?」と彼女に迫った。 彼女は微笑みながら言った。「私、ここに来たばかりよ」 アレンが、「だから、そう言っているんじゃないか」とさらに迫った。 アドリアーナは、「アメリカ人もなかなか押しが強いのね。あなたならラテンの男たちにも負けないわ。でも私、礼儀知らずは好きじゃないわ」と言った。そして、「日本人は礼儀正しい、って聞いたわ」とぼくの方を見た。黒い大きな瞳にぼくの顔が映った。 *つづく
2021年05月14日21時22分