jaokissa
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職場の待機が解除され、帰途につく頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。一刻も早く家族や自宅の安否を確認したかったので本当は車で帰りたかったけど、停電で信号機も稼働しておらず、車で帰るのは危険だという情報が流れたため、歩いて帰ることにした。 大通りに出て愕然とした。本当にビルも民家も街灯も、一切の明かりが消えていた。明治の頃に初めて電灯が灯されて以来戦時下を除けば、街がこんなに真っ暗になったのは初めてなんじゃないかと思った。
jaokissa
真っ暗で何も見えない広瀬川に架かる長い橋を渡る時、もし今、日中と同じ規模の地震が来たら橋もろとも川底に落ちるんじゃないかという、嫌な予感が頭をよぎる。遠くを眺めると、以前自分も勤務したことのある総合病院の、自家発電装置によると思われる明かりが見えた。それ以外は、本当に信号機に至るまで一切の明かりが消えていた。そのさらに上に目を向けた時、思わず息をのんだ。そこには今まで見たこともないような満天の星空が広がっていた。高校生の頃に、山奥の自然の家でキャンプファイヤーをした時の星空も見事だったけど、街の中だというのにそれ以上の星空が目の前に広がっていた。一刻も早く帰りたいと焦る一方で、しばし歩みを緩めて見入ってしまったほどだった。 家に帰ると家の中はめちゃくちゃだったけど、家族は皆無事だった。思わずリビングの椅子にへたり込んだ。片づけは明日、明るくなってからにしようと、とりあえずあり合わせの夕食を食べ、冷たいタオルで体を拭いて、ようやくベッドに横たわってはみたものの、明日からいったいどうなってしまうんだろうという不安でなかなか眠れなかった。津波のニュースを聞いたけど、沿岸部の親戚は皆無事だろうか、家は流されてないか…。それまで経験したことのない、とてつもなく不安な夜だった。 忘れてしまいたいけど、忘れられない、忘れてはいけない10年前の今日の記憶です。
2021年03月11日21時39分