yoshi.s
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J
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男は満開のこぶしの木の下で弁当を食うと、そこにごろりと横になった。 春の風が頬を撫でる。連日の仕事の疲れが解けて行くようだ。 ちょっと横になるつもりが、いつの間にかいびきをかいて眠ってしまった。 どのぐらい寝たのか、なにか気配を感じて目を覚ました。 顔を少し横に向けると女が座っていた。つばの広い白い帽子を被っている。まだ肌寒い春なのにノースリーブの白い服を来ている。 男はそこに寝たまま女の帽子の下を覗き込んだ。男を見ている。少し微笑んでいるようにも見える。きれいな女(ひと)だ。 *下につづく
写楽旅人さんのコメントも多少掌編っぽくなって来ましたね。 まだ風は少し冷たかったのですが日差しがよく、この作業員さん、この花の下で悠悠と昼寝をしていました。ちゃんと昼休み時間でしたよ。
2018年04月19日04時22分
yoshi.s
*つづき 「あの・・、大丈夫ですか?」女が聞いた。 「え、いや、ただ昼寝をしていただけです」と言って男が起き上がろうとすると、「まだいけません。もう少し寝ていないと」と女が押しとどめる。 「いやあ、大丈夫ですよ」と言って、もう一度起き上がろうとすると、女は右手の指で男の胸を押さえ、「まだいけません」、と言う。 「なんでもありませんよ」と言ってまた起き上がろうとしたが、軽く押えているような女の指が重く伸し掛かって来て起き上がれない。 男は、「もういいよ!」と言って強引に起き上がろうとした。すると急に女の指の力が強くなり、胸に大きな石が乗せられたように重くなった。 「おい、よせよ!」と言って身体を捻りうつぶせになろうとした。 すると急に女の口調が変わって、「黙って寝ていろ」。そう言うと女は男の上に跨がり両手で首を絞めた。 「おいっ、何をする!」と、手で女の腕を払ったら、まるで鉄の棒を叩いたような堅さで、男の手の方がしびれた。 「あっ、痛たたっ」 女の身体はしだいに岩のように重くなり、鉄の柱のような腕は掴んで動かそうとしてもびくともしない。女は万力のような力で男の首を絞め上げた。 女の顔には笑いが浮かんでいる。目は充血してつり上がり、口は横に開いて真っ赤な唇がぬめりと濡れている。ふふ、と嬉しそうな声を漏らした。 苦し紛れに身体をのけ反らせた男の手のひらに、何か堅いものが触れた。ライターだ。ポケットから滑り落ちたようだ。男は夢中で着火ドラムを擦って火をつけ、女の脚に押し付けた。 その瞬間に全身の重みが消え、女は消えた。 男は上体を起こし、辺りを見回したが、まるで何ごともなかったかのように静かだった。 夢でも見たのかと思ったが、首がひりひりするので手で触れると、強い痛みがある。手を見ると血がついていた。胸の辺りも重苦しく、息がしづらい。 男は力が抜けて、脚が立たなかった。 こぶしの木に寄りかかって大きく息をすると、白い花びらが一枚、二枚、風に舞った。
2018年04月19日04時17分