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写真エッセイ:こぶし礼讃

写真エッセイ:こぶし礼讃

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    近くの公園に、こぶしの木がある。 去年の暮れ、寒々とした枯れ枝に花芽を見つけた時は嬉しかった。  正月になって、花芽は少し蕾らしくなってきた。 以来、そこを通るたびに眺めるが、一向に花の開く様子はない。 それはそうだ。まだ冬のまっただ中だ。 寒風の中で、降雪の中で、冷たい雨の中で、蕾はただ耐えているようにしか見えない。 しかしたぶん、堅い蕾はその冷たさの中で、着々と身の内に生命の力を蓄えているのだ。寒ければ寒いほど力は凝縮し、来るべき時に備えているはずだ。春の日のその時のために。 *下に続く

    コメント6件

    yoshi.s

    yoshi.s

    *つづき 2月になって蕾がだいぶ膨らんだころ、雪が降った。 こぶしの枯れ枝が白くなり、花が咲いたようになった。 辺りの景色も白くなり、これはこれできれいだ。 しかし蕾たちは、身を堅くして寒さに耐えているばかりだ。 近所の梅が咲き始めた。 3月になり、梅は満開になったが、こぶしの蕾はまだ開くそぶりもない。 しかし陽気は春めいてきた。 蕾は少しずつ大きくなり、周りの綿毛も生き生きとしている。 あと少しだな。 私は上着を一枚脱いだ。 ところが3月中ごろになって急に寒くなり、山が白くなった。 あわてて脱いだ上着を着直した。 冴え返る、という言葉がぴったりする季節の変化だ。   冴え返り 冴え返りつつ 春なかば   西山白雲 うーん、これでは花はまだだな。 しかし翌日になって驚いた。 なにおっ、とばかりに一つの蕾が開いていたのだ。 蕾の先がすぼめた口のように開き、そこから筒のように巻いた花びらが出ていた。 花が笑(え)む、と言うが、私には、蕾が気を吐いたように思えた。 3ヶ月間に亘り耐えに耐え、蓄えに蓄えた花の気が、大気に向かって解き放たれたのだ。 耐えることによって鍛えられ、凝縮された大いなる生命(いのち)の力。 魁(さきがけ)の一輪。 これを見ている他の蕾も、明日には大笑いを始めるはずだ。 私はしばしそこに立ち尽くした。 数日してこぶしは、枝いっぱいに花を広げた。 その下で子どもたちが戯れ、家族が憩い、シニアたちが遊ぶ。 農家は田を耕し始めた。こぶしは田打ち桜とも呼ばれる。こぶしの花が田仕事の始まりを告げるのだ。 爛漫の春だ。 そして4月。こぶしは桜に席を譲るため、花の盛りを終えようとしている。 あと1週間もすれば花は散りはじめる。 それから間もなくして、堅くごつごつした、拳(こぶし)のような実を付けるだろう。 まるで逆境を甘んじて忍ぶ、古武士のような実を。

    2021年07月22日15時20分

    michy

    michy

    公園の大きなこぶしにお心を寄せられ観察し続け、魁の一輪を見つけられたときの 感動が伝わってきました。 自分も花が好きで目当ての花はどうなっているだろうかと気にしていますので yoshi.sさまのような上手な表現はできませんが、同じ気持を表してくださって嬉しいです。 こぶしを田打ち桜ということや古武士に通じる事をまた教えて頂きました。 前作のエッセイでは励ましのお言葉ありがとうございました。元気付けられました。 私こそ年ばかりとってもすべてにひよっこで恥ずかしい事ばかりですが これからもどうぞよろしくお願い致します。

    2017年04月10日22時43分

    旅鈴

    旅鈴

    いいですね、皆様、ひよっこが見られて。私はまったく蚊帳の外です。 コブシ礼賛、いいお話ですね。Yoshi.s様の写真に寄せるお話、いつも楽しみにしています。  Yoshi.s様とMichy様のご交流も心が温まります。

    2017年04月11日00時58分

    yoshi.s

    yoshi.s

    michyさん、旅鈴さん 掌編と言うにはやや長い話しをお読み下さりありがとうございます。 すでにお分かりの通り、3月16日掲載の拙作『こぶし咲(え)む』を核として作文したものです。 公園の灰色の景色の中に、真っ白な花束をどーんと投げ入れてくれるこぶしの木を、私はきっと愛しているのです。写真でもお分かりでしょうが、大きく枝を広げたその姿は、まさに公園の女王です。このエッセイは、春の役目を終えるこぶしへのオマージュです。いや、ラブレターかな。

    2017年04月11日12時52分

    ninjin

    ninjin

    改めて「こぶし咲(え)む」を拝見しました。 蕾が開くのではなく、殻を破って花びらが 飛び出したように見えます。 おっしゃように蓄えた花の気が解き放たれた のですね。 人は樹木が思考したり感情を持っているという ことを知りません。 木々は地面の下で互いに会話しているそうです。

    2017年04月11日23時24分

    yoshi.s

    yoshi.s

    ninjinさん いつも丁寧に読み、かつ見て下さり、ありがとうございます。 木々の土の下での会話については、少し勉強、いや、観察かな、いや、思い巡らしだな・・、してみましょう。

    2017年04月12日00時15分

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