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*つづき 薩長盟約の成った翌日の夜遅く、龍馬は伏見の寺田屋で三吉慎蔵と酒を飲んでいた。 三吉は、昨日に盟約が成ったばかりのその顛末を、龍馬から聴いていた。 三吉は長州の支藩、長府藩藩士で槍の使い手であった。 数日前に下関から京にやって来た龍馬と行動を共にしていた。龍馬の護衛と、今回の件での薩摩の様子を探る使命を帯びていた。龍馬が京の小松邸で薩長の会合に臨んでいた時には、お龍の計らいで寺田屋の隠し部屋に潜んでいた。そのころ京では、長州人は朝幕の敵で、取締りの対象だったのだ。 *下につづく
ハナビシソウ(カリフォルニアポピー)は渡来時期を知っていたのですが、マリーゴールドとコスモスはどうなのかしらなかったので調べてみました。コスモスは意外で明治12年渡来、マリーゴールドはなんと寛永年間に日本に来ていますからありました。 幕末にはどんな花が登場人物の周りにあったのか想像するのも面白いですね。
2022年07月21日00時47分
頑張れ!てんちゃんさん なるほど。花と小説内容とをとくに関連付けていたわけではないのですが、その視点は面白いですね。 コスモスは意外と遅く、マリーゴールドの早いのには驚きました。
2022年07月21日00時58分
yoshi.s
*上からのつづき お龍は、龍馬の元気な様子を見て嬉しく、細々と二人の世話を焼いた。 夜中も廻ったころ、さすがに疲れて風呂に入った。 すると庭に何やら人の気配がするのに気づいた。のぞいて見ると、御用提灯が見える。捕り方のようだ。龍馬たちに知らせないと、と思って立ち上がったそのとたんに、お龍の目の前に小槍の先が出て来た。お龍はわざと大きな声で、「おんなが風呂に入っているのに槍を向けるとはなんじゃ!」と怒鳴った。 「静かにせい。騒ぐと殺すぞ」というひそめた声がした。 お龍はその槍の柄をつかみ、「何を言うか。お前さんらに殺される私じゃない」と大声で言い放ち、槍を振り払って風呂から飛び出した。そして濡れた肌に袷一枚をはおって庭に飛び出し、走った。暗がりの中で勝手を知らない撮り手は、すぐにお龍を見失った。 お龍はそのまま裏の隠し梯子を這い上って、二階の部屋にいる二人に声をかけた。「捕り方が来ましたよ!ご油断召さるな」 二人は裸同然のお龍に驚いたが、すぐに三吉が「よし、心得た」と、袴を着け、槍を持った。龍馬は、下関で高杉晋作がくれた六連発の短銃を構えた。 階段の下に迫った捕り方の龕灯の灯が部屋を照らすので、お龍は部屋の行灯の半分に龍馬の羽織を掛け、灯り側を向こうに向けた。これで部屋は薄暗がりになり、捕り方からは見えづらくなった。切羽詰まった中での、お龍のこの機転であった。 捕り方は伏見奉行の手の者で、この二人が龍馬と長州の三吉とは知らず、ただ薩摩常宿の宿に長州人が出入りしているようだとの情報を得て、取り締まりに来ただけだった。二人の様子に少し怖気付いているようだ。 捕り手は階段を上ろうとするが、三好の槍がこれを塞ぐ。 下から火鉢が投げつけられ、辺りは灰神楽となった。 「肥後守の上意である。神妙にせい!」と言う捕り方の声に、龍馬が「我は薩摩藩士、肥後守の命下にあらず!」と言って、短銃を一発ズドンと打った。龍馬は脅しのつもりで打ったが、捕り手は引かず、槍をかざしてさらに上がって来ようとした。龍馬は、「すまんのう」とつぶやきながら二発目を打った。それが龕灯を持った先頭の捕り手に当たった。捕り手はそのまま「うわっ」と言って、のけ反り落ちた。一緒に落ちた龕灯が一瞬下の階を照らした。多くの槍の穂先がすすきの穂のように光っていた。 これを見ていたお龍は腹が据わり、加勢するつもりで、二人が動きやすいようにと障子を外しかけた。すると龍馬が「おまんは、座って見ておれ!」と言う。お龍は「へえ!」と言って龍馬の側にしゃがみ込んだ。 *つづく
2022年07月31日21時56分